落としもの

四半世紀以上も生きているとうっかり落とし物をしてしまうことは何度かあるものだ。
駒場に通っていた大学一年生の秋ごろ(だったように思う)に、うっかり落としてしまったもののことを妙に覚えている。

落とし物に気づく

あの日は、講義のため情報教育棟へと傘を差しながら向かっていた。
情報教育棟に到着後、鍵付きの傘立てに四苦八苦しながらも何とか講義に間に合った。
講義の内容はさっぱり覚えていないが、浮動小数点とはこういうものだとか、Rubyであれこれしたとか、そういう内容だったのだろう。
覚えていることと言えば、操作に慣れないMac端末がズラリと並んでいたことくらいだ。(あの環境を準備するのに相当な資金とメンテナンスが必要だったんだろうなあ、と今では思う)

講義が終わった後の帰り道、ちょうど雨が止んでいた。
その日の講義はもう終わりだったはずで、傘を忘れずに持って情報教育棟から正門の方へと歩みを進めた。
ふと携帯電話を取り出して時間を確認する。
当時は、二つ折り構造のいわゆるガラケーを使用していた。
光沢を持った白い色が特徴的で、ヴィヴァルディ「四季」より「春」を着信音にして悦に入っていたものだ。(そういえば、当時使用していたちゃぶ台や現在使用している机も同じような光沢を持つ白色だ)
そろそろ正門をくぐろうとしたあたりでポケットの中の携帯電話に触れてみたところいつもの感覚と異なることに気づいた。

取り出して確認してみると、携帯電話にぶら下げていたはずのストラップが千切れてなくなっていた。

紐が切れてしまいそうだなあと思いつつもそのままにしていたのがマズかった。

探索と諦め

講義の前には確かにストラップは存在しており、講義の後はそもそもポケットから取り出していない。
ということは、情報教育棟から正門に至る道すがらで時間を確認したときに落としてしまったはず。

情報教育棟は正門から入って左の方に少し行った位置にあり、そんなに長い距離ではない。
少し億劫だがストラップを探すことにした。

ストラップは、黄色くて細長いトウモロコシのようなキャラクター。
高校のころ友人Bさんが旅行に行ったときのお土産としてもらったものだった。
かれこれ3年くらいは携帯電話のお供にしてきたため、やはり名残惜しい。

濡れた地面に目を向けて、黄色いシルエットを探す。

……探す。

2往復したあたりで、ああこれはもう見つからないのでは、と半ば諦めてしまった。
駄目元の3往復目でも結局見つからなかった。

ストラップの救出を諦めた時、そういえばBさんにお返しはできていたのだろうか、という考えがふと浮かんだ。

そして、そのまま駅に向かっていった。

まとめ

駒場時代にストラップをうっかり落としてしまった話をまとめた。

Bさんとは高校卒業以来、特に交流はないし、現在その予定もない。

ストラップを諦めた時、人間関係の糸をポツリと断絶させてしまったような気がした。

本当に落としてしまったものをまだ問い続けているのかもしれない。